おいしいチョコレートに不可欠なテンパリング
バレンタインデーに手作りチョコレートに挑戦した経験がある方も多いでしょう。
市販のチョコレートを溶かして、モールドや型に流し込んだり、トリュフなどを作ったりした際、うまく型から抜けなかったり、ざらざらと口当たりが悪くなりおいしくなくなってしまうことがあります。
これは、テンパリングに失敗したことが原因の一つであると考えられます。
夢のような口溶けのチョコレートを味わう上で、Lesson4-4で学んだカカオバターの構造の特徴は不可欠ですが、その一方でチョコレート菓子を作ろうとする場合には、この構造がやっかいなものに変わります。
おいしいチョコレートは「テンパリング」の成否にかかっていると言っても過言ではありません。ここで、チョコレートをうまく仕上げるために不可欠な「テンパリング」という調温操作について理解しておきましょう。
テンパリングとは
チョコレートはカカオバターの結晶型により、α型・β’型・β型の3種類、それぞれがさらに2つずつにわけられてⅠ~Ⅵ型の6種類に分類することができます。
α型・β’型・β型の特徴
- α型は、分子同士がばらばらで、カカオバターの結晶は非常に不安定な状態になっています。
- β’型になると、分子が徐々に接近した状態になります。
- そしてβ型になってようやく分子が密着し安定した状態になるのです。
しかし、β型でも、Ⅵの状態になってしまうと、結晶としては最も安定した形ですが、結晶は粗大なものとなってしまいます。先に述べた「ファットブルーム」は、このⅥ型の状態で落ち着いてしまうために起こる現象です。
ですから、チョコレートの滑らかな舌触りを生み出すためには、その直前のⅤ型に整える必要があります。この作業が「テンパリング」です。
テンパリングの手順
では、基本的なテンパリングの手順について学んでいきましょう。
①まず、湯せんにかけるなどして、チョコレートを50~55℃前後まで加熱しカカオバターを完全に溶かします。すると全ての分子がバラバラの状態になります(A 融解)。
②次に、チョコレートの温度を27~29℃に下げて冷却します。この時チョコレートの中には、Ⅰ~Ⅴ型までの様々な型の結晶が生じます。マーブル台やボウルの冷たい部分に触れたチョコレート分子はⅠ型やⅡ型になり、やがてⅢ~Ⅴ型まで型が転移していきます。
この時チョコレートをよく撹拌すると、カカオバターはより安定した状態へと導かれていきます(B 冷却)。
③今度は、再びチョコレートを温め31~32℃にします。この非常に狭い温度帯がチョコレートにとってもっとも大切な瞬間となります。この温度帯では、Ⅲ型やⅣ型の不安定な型の結晶は溶けますが、安定しているⅤ型の結晶は溶けないのです。しかもこの温度帯で溶けたⅣ型の結晶は、構造がゆるみ、Ⅴ型へ転移します(C 昇温)。
この絶妙な温度調整をすることによって、チョコレートがチョコレートらしくなるのです。
④最後に、チョコレートを冷やし固めます(D 凝固)。すると、Ⅴ型の結晶を核として、全ての油脂がⅤ型の結晶へと導かれ、常温では固いけれども口に入れると溶ける、というチョコレートが完成するのです。
しかもⅤ型に統一されたチョコレートは、しっかりと固まり、収縮率も良いので型からも離れやすいという特徴もあります。
さらに丁寧にテンパリングされて結晶が均一になったチョコレートは、その艶も魅力です。表面が宝石の用に黒く輝くチョコレートには、テンパリングが重要な役割を果たすのです。
ミルクチョコレートやホワイトチョコレートなど、チョコレートに含まれるカカオバターの割合などにより、テンパリングの温度は微妙に変化します。
チョコレートを作る時には、レシピをしっかりと読み込み、カカオバターの結晶をうまくⅤ型へ導いてあげることが重要なポイントとなるので、このテンパリングの仕組みを理解し丁寧に行いましょう。
■Lesson4-6 まとめ■
- 「テンパリング」とは、様々な状態にあるカカオバターの結晶型をぴったりと密着するⅤ型に整え、滑らかで均一な口当たりになるように整えて行く大切な作業工程である。
- テンパリングの手順は、一度50~55℃前後まで加熱しチョコレートを融解させた後、27~29℃まで冷却、その後再びチョコレートを31~32℃まで温めることで安定したⅤ型に整え、最後にチョコレートを冷やし固める。こうする事でⅤ型の結晶を核として、全ての油脂がⅤ型の結晶となる。
- Ⅴ型に統一されたチョコレートは、口当たりが滑らかになるだけでなく、しっかりと固まり収縮率もよいので、型からも離れやすい。
- チョコレートに含まれるカカオバターの割合などによって、テンパリングの温度管理などが微妙に異なるため、テンパリングの仕組みを理解し丁寧に行っていく。