カカオバターとは
カカオにはたくさんの油脂分が含まれています。これを取り出したものがカカオバターです。このカカオバターの特性こそが、チョコレートの魅力と言っていいかもしれません。
ここではカカオバターについて理解を深めましょう。少し難しい内容もありますが、魅力もいっぱいです。
カカオバターの構造
室温では固いチョコレートが、口の中に入れるとたちまち溶けてしまうことを不思議に思ったことはありませんか?
このような変化をする食品は、他にはあまり思い当りません。このチョコレートの口どけの良さは、カカオバターの特殊な構造によって生み出されています。
油脂の構造とは
「油脂」は、固形のもの、液状のものと形態が様々です。これは、グリセリンと結びついている脂肪酸の種類や並び方が異なるためです。
基本的な油脂の構造は、下図のように、グリセリン1個と脂肪酸3個(例:A.B.C)が結合したものです。この脂肪酸の部分に、どんな脂肪酸が結合するかによってその油脂の性質が決まります。
特殊な構造を持つカカオバター
では、カカオバターの構造はどのようになっているのかを見てみましょう。
カカオバターは主に、グリセリンに、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸の3つの脂肪酸が結合して形成されています。脂肪酸の大きさを炭素の数で表すと、パルミチン酸が16、オレイン酸とステアリン酸は18というように、これら3つの脂肪酸は、非常に大きさが近いもの同士で構成されています。
それに対して、同じ固形の油脂であるバター(乳脂)は、炭素の数が4~18まで、ラード(豚脂)は10~18とバラバラです。
つまり、カカオバターは大きさのそろった3つの脂肪酸で構成された油脂であることがわかります。
カカオバターの特徴はそれだけではありません。上図のようにカカオバターのほとんどが、オレイン酸を中心としてパルミチン酸とステアリン酸が両側に配置された構造を持っています。
個体が液体に変化するときの温度を「融点」と言いますが、この3つの脂肪酸の融点はそれぞれ、パルミチン酸が62.6℃、オレイン酸が13.0℃、ステアリン酸が69.3℃となっています。
つまり、真ん中に融点の低いオレイン酸がいて、そのオレイン酸を融点の高いパルミチン酸とステアリン酸がはさんでいるという構造です。このような構造のカカオバターは、加熱していくと中央のオレイン酸が溶けはじめ、さらに過熱すると一気に溶けるという特徴を持つのです。
そのためカカオバターが個体から液体へ変化する際には、非常に狭い範囲の温度変化で完了することになります。そしてカカオバターが一気に溶けだす温度が30℃から33℃にかけての温度、まさに人間の体温ととても似通った温度です。
つまり、室温では固くしまった状態のチョコレートが、口の中(36℃前後)に入るとトロリと溶けてしまうという不思議な現象は、このカカオバターの構造に秘密があるのです。
■Lesson4-4 まとめ■
- チョコレートの口どけの良さの秘密は、カカオバターの特殊な構造によるものである。
- 油脂の形状や性質は、グリセリンと結びついている脂肪酸の種類や並び方によって決まる。
- カカオバターの構造は、グリセリンに、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸の3つの脂肪酸が結合している。
- カカオバターは、加熱していくと中央のオレイン酸が溶けはじめ、さらに過熱すると一気に溶けるという特徴を持つ。カカオバターが一気に溶けだす温度は30℃から33℃にかけてで人間の体温と近しく、これが36℃前後の口内ですっと溶けるチョコレートの特徴的な口溶けの秘密である。