Lesson3-6 チョコレートの更なる発展

とろけるような、なめらかさを求めて

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ヴァン・ホーテンらがココア・パウダーの改良を行い、スイスでミルク・チョコレートが開発されても、チョコレートはまだ現在のようななめらかな口どけのものとは程遠い存在でした。そのため人々は固形のチョコレートよりも、やはりココアを飲む方を好みました。

チョコレートが市民権を得るためには、どうしても「ざらざら」とした舌触りを改良する必要があったのです。

ロドルフ・リンツによる「コンチェ」の機械の改良

19世紀後半、スイスのチューリッヒでチョコレートを製造していたルフ・リンツは、「コンチェ」の機械の改良に成功します。「コンチング(またはコンチェ)」とは、材料を撹拌して混ぜ合わせる過程をいいますが、この時に使われる機械が「コンチェ(ラテン語で「貝」)」に似ているので、この名前がついています。

逸話によると、コンチェはリンツが間違えてチョコレートを一晩中ミキサーに掛けたままにしてしまったことがきっかけで誕生したとされています。当初はエネルギーの無駄遣いと機械の消耗に取り乱していたリンツですが、間もなく画期的なことを発見したことに気付いたのです。

Verity Snaps Photography/Shutterstock.com

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この機械の改良によって、カカオマス、カカオバター、砂糖、ミルクといった材料の粒子が非常に細かいものとなり、滑らかなチョコレートを作ることができるようになりました。

コンチェによっては時に78時間も掛けて撹拌されることもあり、特有のマイルドで豊かな味が生み出されます。

コンチングしている過程では、摩擦によって焦げた匂いがしてきます。ですからカカオ豆はローストせずに生で使用されました。
ヨーロッパのチョコレートのメーカーには、現代でもこの製造方法にこだわる会社もあります。

また、コンチングによって滑らかな口当たりになったチョコを材料にしたチョコクリーム「ガナッシュ・チョコレート」をチョコケーキの中に閉じ込め、2層の味わいが特徴的なチョコが「フォンダン・ショコラ」になります。

更なる改良とテンパリングの解明

もともと薬剤師の家庭に生まれたリンツは、薬剤師の兄とともにチョコレートの科学的な研究をさらに進めました。二人の分析の結果、コンチェの部品の形状、作業時間、さらにテンパリングについての解明が進められました。

テンパリングとは、カカオバターの結晶を安定させるために行う温度調節のことで、現在ではチョコレートを作るときには欠かすことの出来ない最も重要な作業となっています(詳しくはLesson4-6参照)。

2人によって、このコンチェとテンパリングが、チョコレートの製造過程でも特に重要なものであることが科学的に裏付けされることとなりました。

油圧式の五段リファイナーの発明

さらにその後の産業の機械化の中で、油圧式の五段リファイナーが発明されます。
この機械の使用によってチョコレートの粒子をさらに細かくすることが可能になり、よりいっそう滑らかな舌触りを持つ極上のスイーツへと見事な変貌を遂げました。

やがて、単なる固形チョコレートだけではなく、プラリーヌ(ボンボン・ショコラ)などのチョコレートを使ったお菓子も作られるようになり、様々なレシピも開発されていきます。

Katerina Belaya/Shutterstock.com

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今日、世界的にも著名なチョコレート・ブランドとなっている企業の中には、19世紀半ばにこうした様々な工夫を凝らしてチョコレートの発展に貢献した会社が多く見られます。

■Lesson3-6 まとめ■

  • ロドルフ・リンツの「コンチェ」の機械の改良成功により、カカオマス、カカオバター、砂糖、ミルクといった材料の粒子を非常に細かくすることが可能となり、より滑らかなチョコレートの製造ができるようになる。
  • テンパリングとはカカオバターの結晶を安定させるために行う温度調節のこと。
  • リンツとその兄の研究により、コンチェとテンパリングが、チョコレートの製造過程でも特に重要なものであることが科学的に裏付けされる。
  • 油圧式の五段リファイナーによりチョコレートは粒子をさらに細かくすることが可能となり、様々なレシピが開発されるようになる。
  • バンホーテン、ネスレ、リンツなど世界的にも著名なチョコレート・ブランドとなっている企業には、19世紀なかばに様々な工夫を凝らしてチョコレートの発展に貢献した会社も多い。