農園で収穫されたカカオ豆は、その後発酵と乾燥を経て、チョコレートを製造する工程へと移ります。
では、固形のチョコレートができるまでを見ていきましょう。
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焙焼(ローストRoasting)
まず、悪い豆やゴミなどを取り除く作業(Cleaning)をした後、カカオ豆の水分含有量が1.5%程度になるまでさらに乾燥させます。それから110~140℃でローストすると、メイラード反応という化学変化が起きて、チョコレートに特有の芳香や風味が発生します。
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破砕・分離
焙焼されたカカオ豆を粗く砕きます。さらに風力を利用して、外皮や胚芽を除去します。こうして取り出された純粋な胚乳の部分を「カカオニブ」といいます。
このカカオニブの状態でも食べられるので、近年では製菓の材料として利用されるようにもなってきました。
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配合(ブレンド)
コーヒーなどと同じように、ここで配合されるカカオニブによってチョコレートには個性が表れます。苦味・酸味・フレーバーなどを考慮しつつ、生産量が多くチョコレート全体の土台となる「ベースビーンズ」と、特徴的な芳香を付けるための「フレーバービーンズ」を組み合わせていきます。
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摩砕(Grinders)
ブレンドされたカカオニブを摺りつぶす工程です。
カカオニブの中には、55%程度の「カカオバター(Cocoa Butter)(またはココアバター)」と呼ばれる油脂分が含まれています。カカオニブをすり潰すとこれがにじみ出てきて、全体がドロドロになります。このペースト状のものが「カカオマス(カカオリカー Cocoa Liquorともいいます)」です。
カカオニブにとってここが運命の分かれ道。このカカオマスから、チョコレートやココアパウダー(Cocoa Powder)が作られていきます。
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混合(ミキシングMixing)
チョコレートの材料を混ぜ合わせる工程です。作るものによって下記の表のように混ぜ合わせるものが異なります。
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微粒化(リファイニング Refiners)
5の過程で混ぜ合わせられたチョコレートの原材料、「カカオの固形成分」「グラニュー糖」「粉乳」は、まだ粒子が荒い状態です。口の中に入れると、砂のようにざらざらとしており、あのチョコレートの滑らかな口当たりには程遠い存在です。
そこで、数本のロールの間を連続的に通過させることで、粒子を細かく砕いていきます。最終的に25μ以下になるまですり潰されます。(※1μ(ミクロン)は1mmの1/1000)
粒子が細かくなると粒子の表面積が増えていきます。するとその表面にカカオバターが吸着されていくため、全体の流動性が低くなり乾燥したフレーク状になっていきます。
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精錬(コンチング Conches)
フレーク状になったチョコレートは、攪拌(かくはん)され、45~80℃ぐらいの温度で半日から一日以上かけて、じっくりと力強く練り上げる作業を行います。この時に用いられる機械をコンチェといいます。
次第にカカオの粒子からカカオバターが染み出して、再び全体にどろっとした流動性が生まれます。それと同時に、余分な水分や不快な香りも揮発していくので、ここでチョコレート本来の芳醇なアロマが引き立ってくるのです。この工程を、ドライコンチングといいます。
続いて、再びカカオバターや乳化剤(レシチンなど)、香料(バニラなど)を加え、今度は非常になめらかな状態になるまで力強く練り上げます。この工程が、ウエットコンチングです。
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調温(テンパリング)
コンチングを終えたチョコレートはいよいよ最終段階に入ってきます。
カカオバターの結晶型を、最も安定した形に調整するための作業が行われます。手作りチョコレートでも、最も気を使うのがこのテンパリングの作業です。
カカオバターの持つ独特な性質をベストコンディションに整えなければチョコレートは完成しません。ここでの調整に失敗すると、チョコレートの保存中に「ブルーム」という劣化現象が生じてしまいます。(テンパリングについてはLesson4-6で詳しく学びます)
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成形(モールドMoulding)・冷却
テンパリングの終わったチョコレートを型の中に流し入れ、気泡を抜いた後、冷やして固めます。
8のテンパリングがうまく行われれば、早く固まり収縮率も大きくなるため、簡単に型から取り出すことができます。言い方を変えれば、型からすっと外せない場合はテンパリングに失敗したという事になります。チョコレートの完成度を決めるテンパリングは、それだけ重要な作業なのです。
10.熟成
カカオバターの結晶をさらに安定化させるために、しっかりと温度や湿度が管理されたところで1ヶ月程度貯蔵し、熟成させます。
あとは、お店への出荷を待つだけです。
■Lesson1-5 まとめ■
- カカオ豆からチョコレートが完成するまでには様々な行程があり、チョコレートになるまでに焙焼→破砕・分離→配合→摩砕→混合→微粒化→コンチング→テンパリング→成形→熟成という加工段階を経る。
- 焙焼(ロースト)・・・悪い豆やゴミなどを取り除く作業の後、カカオ豆を水分含有量が1.5%程度になるまでさらに乾燥させ110~140℃でローストする行程。メイラード反応という化学変化が起きチョコレートに特有の芳香や風味が発生する。
- 破砕・分離・・・焙焼されたカカオ豆を粗く砕き、風力を利用して外皮や胚芽を除去する行程。こうして取り出された純粋な胚乳の部分を「カカオニブ」という。
- 配合(ブレンド)・・・ここで配合されるカカオニブによりチョコレートの個性が決まる。苦味・酸味・フレーバーなどを考慮し、「ベースビーンズ」と「フレーバービーンズ」とを組み合わせていく。
- 摩砕・・・ブレンドされたカカオニブを摺りつぶす工程。カカオバターがにじみ出し全体がドロドロになったペースト状のものが「カカオマス(カカオリカー Cocoa Liquor)」となる。
- 混合・・・チョコレートの材料を混ぜ合わせる工程。作るものにより混ぜ合わせるものが異なる。
- 微粒化・・・数本のロールの間を連続的に通過させて、粒子を細かく砕いていく行程。混合の段階で混ぜ合わせた材料は粒子が荒い状態のため、滑らかな舌触りのためには欠かせない工程。
- 精錬(コンチング)・・・45~80℃ぐらいの温度で半日から一日以上かけ練り上げる行程。この時に用いられる機械をコンチェという。チョコレート本来の芳醇なアロマが引き立ってくるドライコンチングとなめらかな状態になるまで力強く練り上げるウエットコンチングの工程がある。
- テンパリング・・・カカオバターの結晶型を最も安定した形に調整するための工程。この調整に失敗すると、チョコレートの保存中に「ブルーム」という劣化現象が生じる。
- 成形・・・テンパリングしたチョコレートを型の中に流し入れ冷やして固める工程。テンパリングがうまく行われると、固まりも早く収縮率も大きくなり簡単に型から取り出すことができる。
- 熟成・・・カカオバターの結晶をさらに安定化させるために、しっかりと温度や湿度が管理されたところで1ヶ月程度貯蔵する工程。
- テンパリングはチョコレートの完成度を決めるとても重要な段階である。これにより完成時の艶や口当たり、成形の出来の良さが変わる。